【コント】おやつ

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◯Aの家

   ゲームをしているAと、それを眺めているB。

A:なあ、いいかげん『桃鉄』飽きたな。
B:うん。だろうな。
A:いっつも40年あたりで飽きちゃうんだよ。
B:へー、そうなんだ。
A:うん。なんか人生みたいじゃない?
B:はあ?
A:やっぱ40歳頃に人生一回飽きて疲れちゃうんだよ。
B:そうかなあ。
A:そうだよ!
B:なんで怒ってんだよ。てかさ、なんで桃鉄一人でやるの?
A:え?
B:ふつーはみんなで……せめて二人でやらない?
A:それいま聞く?
B:そういう問題かな。
A:40年間何してたわけ?
B:そういうことじゃないだろ。
A:いや、だってさ。お前桃鉄やったことないんだろ?
B:やったことないけど、10年も見てればだいたいわかるよ。
A:10年じゃわかんないよ。人生と同じ。10才なんてまだまだガキ。
B:もういいからそれ。「一人で99年やるから見てて」っていうのはどう考えてもおかしいだろ。
A:イヤだよ。だってお前こういうの絶対ムキになるから、ケンカになっちゃうもん。
B:じゃあもういいよ。腹減ったわ。
A:あ、おやつ食う?
B:食うよ。めっちゃ食うよ。……40年分食うよ。
A:あはは。なんかお前そういうとこむかつくな。
B:お前が言うな。
A:まあまあ機嫌直せって。はい。
B:……なにこれ?
A:え、お前が買ったんじゃないの?
B:いや。買ってないよ。お前だろ?
A:知らないよ。初めて見た。
B:ウソだろ。なんだよこれ。
A:まさか、大人のオモチャ的な……?
B:どんな発想してんだよ、ただのポテチだろ。
A:ていうか、良くできたアートみたいだな。
B:うん。でも見たことないよ。何これ。文字何て書いてあるか読めないし。
A:外国のとかじゃないの。
B:なんかこえーよ。
A:開けてみよーぜ。
B:やめとけよ、なんか爆発とかするかもしんないだろ。
A:爆発って(笑)。発想がギャグマンガだな。
B:うるせえな、いやマジで気を付けろって……。
A:ウンダバー!
B:……大丈夫か。
A:うん。全然平気。食べてみよーぜ。
B:いや、さすがにやめとけって。
A:(臆さず食べる)うん。味は……ふっつー!むかつくー!
B:そこ怒るとこじゃないだろ。
A:なんかこう、期待しちゃうじゃん。
B:何をだよ。でもやっぱ不気味だって。怖いだろふつー。
A:大丈夫だって。お前も食ってみな。
B:いやいや、いいって。
A:うまいよ。うんうん。ふつーにうまい。
B:ウソつけよ。めっちゃ涙出てんじゃん。
A:あれ、ほんとだ。感動してんのかな。
B:そんな無自覚に感動しないだろ。
A:いやー、うまいおやつ食いながらゲームするってさ、最高のひまつぶしだよな。
B:まあ、そうだけどさ。お前ぐらいだろ。
A:なにが?
B:ニートでこんなぐうたらしてんの。
A:わかってるよ。今だけだって。
B:あれだろ、お前の妹さんはいま超忙しいんだろ。
A:知らねえよ。つかせっかく転職期間中の貴重な休みなんだからさ、そういう話はいいだろ。
B:まーまー、そうだけどさ。
A:そういや、この間言ってた桂子ちゃんとはどうなったんだよ。
B:別にどうもねえよ。1回軽くお茶しただけだし。ていうか俺、今年1年は恋愛しないって決めてるから。
A:そうなんだ。
B:そもそも桂子ちゃんはいわゆるバリキャリっていうの?しっかりしてるんだけど意識高い感じだから、付き合ったらちょっとしんどいかなあって。
A:へー。
B:住んでるとこも結構遠いから、デートするのも大変かなって。いやまあ、まだ付き合ってもないのにこんなこと考えるなんて、取らぬ狸の皮算用だよな。
A:ああ。“まだ産まれていない卵を気にかけるな”とも言うよね。
B:そうなの?
A:うん。
B:そうだ。それよりさ、こないだの合コンで知り合った子が美人じゃないけど、妙に気が合うんだよね。
A:へー、いいじゃん。
B:家も近所みたいだから、その子の方が脈あるかもしんない。
A:なるほど。“手の中の雀は、屋根の鳩よりも良い”って言うしね。
B:そ、そうなの?
A:うん。
B:いやまあ、そもそも失恋の怖さは身に沁みてるから、あんまり強気になれなくてさー。だからこの1年は恋愛しないって決めてるんだよね。
A:なるほど。“やけどした子供は火を避ける”って言うしね。
B:さっきから何なのそれ!
A:ことわざだよ。
B:聞いたことねえよ。それ食ってからなんかおかしいんじゃねえの。
A:関係ないだろ。
B:つーか、それ気になってしょうがねえわ。ちょっと見せて。
A:はい。
   B:、スマホで撮影。それをググる
B:見ろよ。画像検索でも引っかからない。
A:マジで?
B:ちょ、ツイッターに流してみるわ。このお菓子知ってる人います?と……。
A:あ、さすがにネットで探せばいるだろー。
B:そもそもなんて書いてあるのか……あ、そうだ!
A:どしたの。
B:レシート見せて。
A:レシート?
B:商品名書いてあるだろ。
A:あーあーあー、なるほど。
B:だろ!
A:捨てちゃったよ。
B:なんでだよ!!
A:そりゃいらないもの、レシート。
B:取っとくだろふつー!
A:いらないだろふつー!社会人かよ。
B:社会人だよ!
A:あそっか!でも“タダより高いものはない”ていうじゃん。だからタダでもらえるレシートより高いものは、この世に存在しないんだ。
B:意味わかんねーよもう、マジかよー!
A:そんなにヘコむなって。ディグンディグンー。
B:はあ?
A:ああ、めんごめんごー。
B:言い直してもむかつくわ。さっきから言葉おかしいぞ。
A:え、何してんの?
B:電話だよ。
A:ええ?
B:あ、もしもし。すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが、レシートの再発行ってできますか……?
A:こいつマジで言ってんの……?
B:ああ、そうですか。ええと、じゃあ、その……レジの売上記録みたいなものを確認してもらうことって……?ああ、そうですか……。
A:あ、ちょっと変わって。俺がビシっと言ってやる(スマホを奪う)。
B:なんだよ!
A:もしもし、私、清水という者ですけど。はい。清らかな水と書いて清水。
B:そこ別に良くない?。
A:はい。はい。そうです。そうです。はい。おっしゃる通りです。
B:大丈夫かな……。
A:はい。では、よろしくお願いしますねー(スマホを返す)。
B:え、なに、OKもらったの!?
A:ふふん!
B:すげーな!(電話に)あ、すみませんホントお手数かけて。
   A:例のお菓子を食べる。
B:時間は2時頃で、一緒に買ったのは、えーと午後ティーと、カルピスと、あとじゃがりこと、プリンと……。
A:女子高生かよー!(大げさにガヤを入れる)
B:うるせえな。はい、そうですそうです。あ、すみません。……(Aに)ちょっと、メモちょうだい。
A:メモ?はい。
B:はい、すみません、お願いします。……はい。はい。え、ほんとですか!?(書き留める)
   A:、また食べる。
B:はい、わかりました。ごめんなさいご迷惑おかけして。ほんとありがとうございます。はい。はい。では失礼しまーす。
   A:、またスマホを奪う。
B:なんだよ!
A:清水です。はい。はい。すみません、ご協力ありがとうございました。はい。はいー。お手柔らかにー。
B:挨拶おかしいだろ。
A:なんだって?
B:レジの売上記録を見てもらったんだよ、そしたらレジの商品名も文字化けしてたんだって!
A:マジで?いよいよヤバい感じだな。
B:で、教えてもらったのがこれ(メモを見せる)。
A:はあ。
B:なんか最初の文字が、アルファベットのUの上にチョンチョンって。この時点でわけわかんねえよ。
A:ん、んんー?
B:あとはBとかrとかあるっぽいんだけど、ところどころ見たことない漢字とか記号が入ってるんだって。
A:これ、もしかしてウーウムラウトかも。
B:は?ウーウム……?
A:ウーウムラウト
B:なにそれ。
A:ドイツ語だよ。
B:意味わかんねえよ。なに、お前ドイツ語できんの?
A:まあ、ちょっとだけな。
B:初めて聞いたわ!すげえじゃん!
A:大したことねえって。
B:え、じゃあなんとなくわかんじゃねえの?
A:あー、そしたらひょっとして、これかな……(スペルを書く)。
B:う、う、うべらしぇんど……?(überraschend)
A:そう。“意外”って意味のドイツ語。
B:そうなんだ、え、全然意味わかんないけど。
A:俺だって知らねえよ。
B:だよな……。あ、じゃあこのメーカーは?
A:アンファグ(Unfug)……ああー。
B:なんて意味?
A:正直、わかんないっすね。
B:なんでだよ!
A:だからちょっとだけって言ったじゃん(逆ギレ)!
B:ごめんごめん。いや、でもすげーヒントだわ。これで検索してみようぜ。
A:おお、やってやって。
   B:スマホで検索する。
B:ダメだ。何にもヒットしない。
A:メーカーでも?
B:うん。
A:……はあ?
B:ちょっと待って。なんかすげえ怖くなってきた。
A:……そうか?
B:つまり、あの、言いたくないけど、これってさ、もしかしてさ、世の中に存在しないおかしなんじゃね……?
A:んなわけねえだろ。
B:ツイッターも何も反応ないし。
A:まあふつー、意味わかんないツイートはスルーするわな。
   A:また食べる。
B:やめとけって。
A:なんかこう、やめられないとまらない的な。
B:え、何かヤバいもん入ってんじゃねえの!?
   A:、くしゃみを一発。
B:おい、大丈夫かよ。
A:ははは。ちょっと寒くなってきたかも。
B:マジかよ、マジかよ……。
A:また電話?
B:あ、もしもし?すみません、えーと、お菓子を買ったんですけど、その商品の名前とメーカーがわからなくて。詳しく調べたいなと思ったんですけど、そういう問い合わせってどこにしたら良いんですかね?あー、安全課ですね。はい。はい。ありがとうございましたー。
A:どこに電話してんの?
B:消費者庁
A:消費者庁!?
B:あ、もしもし、すみませんちょっとお菓子を買ったんですけど、その名前もメーカーもわかんなくて、これどういう商品か調べたいなと。はい。はい。あー、そうですか。あ、はい。なるほど。ありがとうございましたー。
   A:、大げさな咳をする。
A:どしたの急に。
B:こうなりゃ徹底的にやるぞ。
A:なに、こわ!
B:俺だってこわいよ!だからこそだよ!
A:次はどこに電話すんの!?
B:厚生労働省だよ。
A:ええ!?厚生労働省に電話する人初めてみた!
B:あ、もしもし、えーとですね、ある市販の食品についての詳細を調べてまして……。
   A:さらに大げさな咳と、関節の痛みを訴える。
B:あ、そうですか。わかりました。ありがとうございます。はい。はい。失礼しまーす。
A:なんだって?
B:向こうでも前例がないからすぐには対応できないって。
A:そうなんだー。
B:ていうか、大丈夫?すごい顔色悪いけど。
A:なんかちょっと頭痛くなってきたかも……。
B:マジで?ちょっともう1件だけ電話していい?
A:どこに?
B:警察。
A:警察!?いや別に事件とかじゃないからさー。
B:あ、もしもし。すみません、えーと何て言っていいかわかんないんですけど、ヤバいもん拾っちゃいまして。
A:おいおい、迷惑だからやめとけって。
B:あ、そうですか……。え、でも一応来てもらえます?はい。はい。(Aに)おい、住所。
   A:無言で机に置いてある郵便物を見せる。
B:えーと下北沢の……。
   A、吐き気も催し始める様子。
   B、電話を終える。
A:……どうだった?
B:詳細不明だから対応できないって。イタズラはやめてもらえますかとか言われちゃったよ。
A:そりゃそうだろ。
B:でも一応、来てもらうように言っといた。
A:そうなんだ……。
B:どうしよう。週刊誌とかウェブメディアにも連絡しといた方がいいかな。
A:……。
B:え、どうしたの。めっちゃ調子悪そうだけど。
A:なんか目眩も……ちょっとトイレ行ってくるわ……。
B:マジかよ、え、ちょっとこれホントにヤバいやつじゃない?
   A、ふらふらしながら席を立つ。
   移動中に倒れる。
B:おい!大丈夫かよ!
   A、返事もできない。
B:もしもし!えーと!友達が倒れて!えーと、何か変な外国製のお菓子を食べた後なんですけど!
   A、急に立ち上がる。そのまま勢いよく服を脱ぎ、派手な動きをする。
B:あれ、すみません、えーと、何か元気になりました!大丈夫です!ごめんなさい!(Aに)おい、いたずらとかやめろって!
A:私は……死神だ……。
B:……は?
A:私は……死神だ……。
B:……清水?
A:私は……死神だ……。
B:マジで言ってる?
A:人間界のお菓子になりすまし、人間の体内に入り、こいつを乗っ取ることに成功した……。
B:……え、え、え、ええ!?
A:こいつの命はもらった。貴様の命もいただく。
B:ちょちょちょちょ!ええー!!
A:さすがに急すぎるので、チャンスタイムをやろう。
B:は、は、はい……?
A:要らなければ良い。すぐさま貴様の命を……。
B:要ります要ります!チャンスタイム!お願いします!。
A:では今すぐ、貴様が一番大切にしている女に連絡しろ。
B:え、ええ!?
A:ただし、身内は不可とする。
B:ええ、マジですか!
A:これが貴様の人生で最後のメッセージだ。
B:ちょちょちょちょ、ええー!?
A:大切にしている女がいないならそれで良い。ではさっそく貴様の命を……。
B:いますいますいます!
A:貴様、先ほどこの1年は恋をしないと……。
B:すみません!実は内緒で付き合ってる彼女がいて。
A:なに……!?
B:えっと、清水の……その、大切な人だから言い出せなくて……。
A:なあにいぃいいい!?。
B:あ、もしもし。愛子さん?(Aの顔をうかがう)今ちょっとだけいい?
   A、驚愕の表情。
B:今までありがとう。本当に感謝してる。大好きです。愛してます!
A:死ねえええええ!(首を締める)
B:うわあ!
A:人の妹に手ぇ出すとはー!!クソヤロウがあああーーー!!!
B:ぎゃあああああ!!!!
A:……なーんてな、わかってたよ。
B:……は?
A:いや。あいつからぜんぶ聞いてるから。
B:……は??
A:いや、ドッキリでしたー。てってれー!
B:……はあ?
A:いや、だからこれ、ぜんぶドッキリ。
B:……はあ??
A:お前がこそこそ隠すからさあ、妹が遊ばれてんじゃないかって心配だったんだよね。
B:……はあ???
A:結構、カッコ良かったじゃん。
B:……ちょっと待てよ。見たろ、ぜんぶ。一連の流れ。
A:これ、知り合いにつくってもらったの。すごいよねー。
B:いやいや、そういうレベルじゃなくて。だってほら、いろんなとこ電話して聞いたじゃん、警察とか。
A:うん。みんなにそう対応するように言っておいたから。
B:はあ?
A:コンビニも、警察も、ツイッターのフォロワーにもぜーんぶ。
B:……ウソだろ
A:こういうドッキリするから、ご協力お願いしますねーって。お手柔らかにーって。
B:はあ……マジで!?
A:うん。
B:お前、ニートじゃん?
A:ニートだからこそじゃん?……てか関係ないだろ。
B:……。
A:……。
B:……。
A:……てか友達の妹に手を出すとか超こええええ!!
B:お前の方がこえええよおおおおおお!!!!!!

END